インド発のスタートアップによる最近のトレンド「リバース・フリップ」は、“定番メニュー”になるのでしょうか、それとも期間限定の“特別メニュー”にすぎないのでしょうか。

年、インド発のスタートアップや企業が「リバース・フリップ」、すなわち、シンガポール、デラウェア、ケイマン諸島などのオフショア管轄区域から、持株構造をインドへ戻す動きが顕著になっています。これは、スタートアップの法人設立を当初はオフショアで行うという、従来のトレンドを逆転(リバース)させるもので、多くがグローバル投資家へのアクセス、より良い規制環境、税制上の優遇措置を求めてのことです。しかし、市場力学の変化、規制の改正、そしてインドが事業拠点としてますます魅力を増していることから、多くの企業が従来の企業構造を見直すようになっているのです。

この逆転現象の主要な原動力の一つは、インドの資本市場の成熟化です。2024年には、Go Digit General Insurance、Swiggy、FirstCry、Unicommerce、Ola Electricなど、13社もの新時代のテクノロジー企業がインドの証券取引所に上場しました。

Azmul Haque
Azmul Haque
マネージング・ディレクター
Collyer Law LLC
シンガポール
Tel: +65 6950 2875
Email: azmul.haque@collyerlaw.com

これは、多くのインドのスタートアップが外国の証券取引所で上場するよりも、国内で上場する方に有利であると考えていることを示しています。インドの公開市場の成長が、流動性の向上と投資家の信頼の深まりと相まって、長期的な成長を目指すスタートアップにとってインドでの上場が実行可能であるだけでなく、むしろ望ましい選択肢となっています。

また、インドの規制や税制の変更も大きな役割を果たしています。特にタックス・ヘイブンとされる地域のオフショア構造に対する監視が厳格化され、重要な経済的存在感(SEP)や外国為替管理法(FEMA)に基づく報告義務の強化など、新たなコンプライアンス要件が導入されました。

さらに、投資家の感情も重要な要因です。多くのインドのベンチャー・キャピタルやプライベート・エクイティ・ファームは、外国の構造に伴う複雑さから、インドに本拠を置く企業への投資を好むようになっています。また、一部のグローバル投資家もインドの経済成長の可能性を認識し、インドを拠点とする企業に対してますます安心感を抱くようになっています。

最終的に、この逆転現象の傾向は、資本調達やグローバルな事業拡大のためにオフショアに拠点を置く必要がもはやなくなるほど、インドが主要な経済勢力として台頭し、成熟したエコシステムとなったことを示しています。オフショア構造は特定のビジネスモデルでは引き続き有用な場合もありますが、多くのインド発の企業は、ガバナンス、コンプライアンス、そして長期的な価値創造において、インドが大きな利点を提供すると考えています。

シンガポールからのリバース・フリップの最近の事例

決済ソリューション・プロバイダーのPine Labsは、シンガポールに拠点を置く持株会社とインドでの事業とのクロスボーダー合併の承認を求め、2024年5月に承認を受けました。

さらに最近では、クイック・コマースのスタートアップのZepto が、2025年1月にシンガポールからインドへのリバース・フリップを完了し、シンガポールの会計企業規制庁(ACRA)とインドの全国会社法審判所(NCLT)から正式な承認を受けました。

リバース・フリップ:シンガポール法の側面

シンガポールの法的および規制上の観点から、リバース・フリップのプロセスには、シンガポールとインドの企業を統合するためのスキーム・オブ・アレンジメントが含まれます。

プロセスの主な手順は以下のとおりです。

(1)シンガポールの会社が、株主総会の招集命令を求めて高等裁判所に申請する

(2)裁判所は総会の開催方法を指示する。承認には、特段の定めがない限り、株主の少なくとも4分の3以上の賛成が必要となる

(3)シンガポールとインドの両方の法令に基づいて、法律上、税務上、会計上の影響を考慮して、スキーム・オブ・アレンジメントが作成される

(4)草案は両社の株主によって精査され、承認される

(5)承認後、高等裁判所に最終承認の申請がなされる

(6)承認されれば、裁判所の命令が7日以内にACRAに提出される。

このスキーム・オブ・アレンジメントの法的効果は2つあります。すなわち、インドの会社がシンガポールの会社のすべての資産、負債、法的手続きを引き継ぎ、シンガポールの会社は清算手続きなしに解散されるというものです。

今だけの特別な状況なのか、定番になるのか?

この動向は、デラウェアやシンガポールのような、従来インドのスタートアップが採用してきた海外の持株会社の管轄区域にとって、どのような意味があるのでしょうか?

シンガポールの資本市場は、最近の実績は期待外れであったものの、アジアおよび世界の金融拠点としての評価は依然として魅力的で他に類を見ません。シンガポールは、規制の行き届いた銀行・金融サービス業を有しており、ビジネスのしやすさ、堅牢な企業法の枠組み、さらには、(商業的専門知識、効率性、公平性で知られる)裁判所や仲裁機関を備えていることから、ビジネス上の紛争解決の場として好まれています。

シンガポールの2025年度予算の取り組み

シンガポールの2025年度予算は、国内のスタートアップ・エコシステムを強化することを目的とした一連の施策を打ち出しています。資本へのアクセス改善、国際的な事業展開の支援、AIやディープテクノロジーの革新の促進に重点を置くことで、この予算は創業者や起業家たちに新たな機会を提供します。スタートアップに直接的な恩恵をもたらすことになる主な施策の一部を、以下に紹介します。

より強力なスタートアップ向けIPO支援:政府は、シンガポール証券取引所(SGX)を、より競争力のある上場先として位置付けるため、強化策を講じています。シンガポール上場株式に大幅に投資するファンドマネージャー向けの新たな税制優遇措置により、SGXは一般公開上場のための、より魅力的なプラットフォームとなるでしょう。

さらに、機関投資家やプライベート・エクイティ・ファームとの連携によって、市場の信頼性や流動性が向上します。高成長のスタートアップが、海外市場を求めるのではなく、シンガポールでのIPOを検討するよう促し、国内資本へのアクセスが改善され、より活気ある株式市場の形成へとつながります。

10億シンガポールドルのプライベート・クレジット・グロースファンド:世界的にベンチャー・キャピタル(VC)の資金調達が厳しくなり、スタートアップが投資を確保することが困難な状況になっています。これに対応するため、政府は10億シンガポールドルのプライベート・クレジット・グロースファンドを導入します。

このファンドは、従来の銀行融資が困難なスタートアップや高成長企業に代替の資金調達手段を提供します。希薄化を伴わない資金調達により、創業者が株式を手放さずに事業拡大できるよう支援します。また、民間投資家が機関投資家と共同で投資を行うことを促して、シンガポールはディープテック、先進製造業、高成長分野におけるスタートアップ向けの資金調達エコシステムを強化します。

グローバル・ファウンダー・プログラムによる拡大支援:シンガポールを、主要なスタートアップ拠点としてさらに確立するため、政府はグローバル・ファウンダー・プログラムを開始する。この取り組みは、国際的な起業家がシンガポールで事業を設立・拡大することを促すとともに、現地のスタートアップがグローバル市場へと成長を試みるのを支援します。

メンター制度、資金調達へのアクセス、経済開発庁(EDB)のパートナーシップの活用によって、このプログラムは、スタートアップが多国籍企業と協力して国際的に事業展開するための新たな機会を創出します。市場参入や事業成長に対して直接的に支援を行うことで、この取り組みは、革新的な企業のための地域での足掛かりとしてのシンガポールの役割を強化します。

AI、ディープテック、国家生産性基金:次世代のイノベーションを推進するため、政府はAI、ディープテック、研究開発(R&D)に大規模な投資を行っています。国家生産性基金に30億シンガポールドル(22億4000千万米ドル)の追加拠出を行うことで、高付加価値の技術投資を呼び込み、企業の生産性を向上させ、労働者の育成を促し、業界全体の変革を加速させます。

さらに、エンタープライズ・コンピュート・イニシアティブの下で1億5000万シンガポールドルがAI導入支援に割り当てられ、企業に最先端のAIツール、計算力、専門のコンサルタントへのアクセスを提供します。これらの投資により、スタートアップはAI駆動型のソリューションの統合のために必要なインフラを整備し、急速に進化するテクノロジー環境の中で競争力を維持できるようになります。

世界レベルのスタートアップ・エコシステムに向けて

2025年度予算によって、シンガポールは世界レベルのスタートアップ・エコシステムを構築するための取り組みを強化します。資金調達オプションが改善され、グローバル展開の支援やAIへの投資により、スタートアップは国際的にイノベーションを起こし、事業を拡大するためのより強固な基盤を得ることになります。これらの取り組みは、急成長する企業に類を見ない機会を提供し、今こそ起業家が政府拠出の資金とサポートを活用するのに最適な時機であることを示しています。

最終的には、シンガポールは強固な法的インフラ、税効率、ビジネスが容易な環境、さらに金融ハブとしての地位を兼ね備えることで、地域全体での事業拡大を狙う企業にとって、安全で予測可能であり、かつビジネスに適した環境を提供することになるでしょう。

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