現在のビジネス環境において、人材の流動性が現代の雇用関係の特徴となりつつありますが、そこでしばしば問題となるのが、熟練した人材を確保して得られる雇用主の正当な利益と、自らの選択した職業、事業、専門分野を追求しようとする従業員の基本的権利との間で、裁判所がいかに均衡を図るべきかということです。最近、Vijaya Bank対Prashant B Narnaware事件(2025年)において、インド最高裁判所はこの問題に直面することになりました。
事案の概要

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従業員のPrashant B Narnaware氏は1999年にVijaya銀行に入行し、2006年に同組織内の新たな上級職に応募しました。この新たな職位の募集広告には、選考された候補者は20万インドルピー(2268米ドル)の補償誓約(indemnity bond)を交わし、3年間の勤務が完了する前に銀行を退職した場合、これを支払わなければならないという明確な条件がありました。
この条件を認識した上で、同従業員は当該上級職に応募して採用され、3年間の最低勤務期間と前記金額の補償誓約を交わすことを義務づける条項を含む辞令を受諾しました。
同氏は2007年9月に当該職位に就き、雇用契約条項に従って必要な誓約を交わしました。しかし、同氏は2009年7月、規定された3年間の最低勤務期間を完了する前に、他の銀行に転職するため退職し、異議を唱えた上で、雇用契約条項に従って銀行に20万インドルピーを支払いました。
同従業員はその後、カルナータカ高等裁判所に令状請求訴訟を提起し、雇用契約条項が1950年のインド憲法第14条および第19条第1項(g)、並びに1872年のインド契約法(ICA)第23条および第27条に違反すると主張しました。裁判所は同従業員に有利な判決を下し、銀行に、同従業員が異議を唱えながら支払った補償誓約に基づく金額を返還するよう命じました。銀行はこの判決を不服としてインド最高裁判所に上告しました。
最高裁判所が検討した争点
案件の事実関係に鑑み、最高裁判所が検討した主要な争点は、雇用契約条項が以下に該当するか否かでした。
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- インド契約法第27条に基づく取引制限契約(適法な職業、取引または事業の遂行を制限する一切の合意を無効とする)に該当するか
- 公序に反するか(被申立人が交渉力を有しない定型約款契約であったため)、およびそれゆえにインド契約法第23条、憲法第14条および第19条に違反するか
最高裁の判決

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最高裁判所は雇用契約条項の有効性を支持し、高等裁判所の決定を覆しました。より具体的には、各争点について最高裁判所の判断は以下の通りでした。
取引制限について、最高裁判所はインド契約法第27条から分析を始めました。Niranjan Shankar Golikari対Century Spinning and Manufacturing Co事件(1967年)などの先行する画期的な判例を引用しつつ、最高裁判所は以下のように判示しました。
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- 雇用期間中に効力を有する制限的約款は、取引制限契約には該当しない
- 雇用契約条項は従業員の退職の選択肢を制限することを求めており、一定期間、雇用契約の維持を確保する趣旨であった
- 雇用契約条項の目的は将来の雇用を制限することではなく、したがってインド契約法第27条に違反するとは言えない
また、公序の争点について、最高裁判所は以下のように判断しました。
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- 雇用契約条項は、銀行によって離職率を下げ、効率を向上させる目的で導入されたことから、不当、不合理、不公正なものではなく、したがって公序に反するものではない
- 不適切な時期の退職が銀行に財政的困難をもたらすであろうことを考慮すれば、20万インドルピーの損害賠償額は過大ではなく、銀行に不当利得をもたらすものではない。なぜならそれは「銀行は、憲法第14条および第16条の下での憲法上の要請に抵触することがないよう、公開募集広告や公正な競争手続きを伴う、煩雑で費用のかかる募集過程を実施することを要する」からである
- したがって雇用契約条項は不当ではなく、公序に反するものでもない。結論として、最終的に最高裁判所は、雇用契約条項は取引制限に該当せず、公序にも反しないと判示しました。
重要な考慮事項

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最高裁判所が今回の結論を導くにあたり、業界全体におよぶ重要な考慮事項を意識していたことは特筆すべきことです。
第一に、在職中に効力を有する約款と、将来の職業選択を制約する条項とを区別することにより、最高裁判所は、これまでインドの裁判所が主に指針としてきた通り、使用者の正当な利益を考慮しつつ、その一方で労働者の移動する権利を保護する必要性を改めて強調しました。
第二に、最高裁判所の公序に関する分析はより複雑で、現代の雇用法が抱える葛藤を浮き彫りにするものでした。雇用契約条項が不平等な交渉力によって強制された不当な定型契約となり、不当利得をもたらすとの主張に対して、裁判所は雇用関係における契約上の公正性についての根本的問題に取り組みました。
第三に、そしておそらく最も重要なことは、最高裁判所の分析が、今日の雇用主、特にインドにおける公的部門の事業体が直面している、現代の経済的現実に及んだことです。この点に関して裁判所は、「技術の進展が業務内容や業務の性質に影響を与え、リスキリングや自由市場における希少な専門的人材の確保が、公序に関する新たな論点となっている」こと、および、経済の自由化以降、「上告人である銀行のような公的部門の事業体は、効率的な民間企業と競争する必要がある」ことに言及しました。この分析は、公的部門の雇用主が置かれている特有の制約について、司法が認識していることを示しています。
こうした認識により、最高裁判所は「離職率を下げ、業務効率を向上させるために」最低勤務期間を設けることは、この状況下では合理的であると結論づけました。
最高裁判所による20万インドルピーの補償額についての扱いは、雇用契約における損害賠償の原則に対する高度な分析を示しています。裁判所は、銀行が主張した「早期および不適切な時期の退職により生じる財政的困難や管理上の努力」を考慮しただけでなく、従業員が高額な報酬を受ける上級中間管理職の地位にあったことも加味し、本件金額が妥当であると判断しました。
今後の展望
本件は、最高裁判所による公的部門の銀行であることを前提とした現実的な判断ですが、その影響は公的部門の雇用主にとどまらず、民間部門にも広範に及ぶ可能性が高いでしょう。
本判決により、民間企業の雇用主に対しても、同様の制限を雇用契約や採用通知に盛り込むための法的根拠を提供する可能性があります。ただし、そのような条項を執行可能とするためには、本件における最高裁判所の判断の根拠となったように、従業員の早期退職とその退職に対して課される損害賠償との間に、因果関係が十分に確立されていることが不可欠です。
またこのような条項は、従業員の将来の就職の就業可能性を制限したり、不合理な損害賠償や制限期間を課したりするものであってはなりません。
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